人気ブログランキング | 話題のタグを見る

鶏頭



私は自宅に向かう細い道を歩いていた。
周りは田んぼと畑ばかりの田舎だった。
見慣れた風景であることから、そこが実家の近くだと気がつく。
この辺りは、ここに住んでいる人しか入ってこられないような所で
地域の人以外の「侵入者」がいたとすれば、すぐにわかった。
小さい頃から、何一つとして変わらない風景。
しかし、今日はやけに侵入者が多いことに気がつく。
そのすれ違う人達は、黒いサングラスをかけて
きちんとした質の良さそうなスーツを着ていた。
一人の男が、もう一人の男に
なにやらヒソヒソと耳元で話をしている。
話をしていると言うより、報告をしているように見えた。
私は直感で「刑事」だと感じた。
その後、今度はまた違った感じの男が向こうからやってきた。
目の悪い私は、その男を遠くから凝視しながら歩いて行った。
その男の後ろには、西洋の画家が遠近法を使って描いたような
一本道が遠くまで続いていた。周りは田んぼだけだった。
どんどんその男との距離が縮まっていく。
私の視力でも相手の姿がわかるくらいの距離に達したとき
私はその男の格好が変わっていることに気がついた。
男の頭が、鶏の頭だった。
すっぽりと頭全体を覆ったその「かぶり物」は
布でもなく、安っぽいビニール製でもなさそうだった。
何というか・・・。その男の全体像にしっくりいくというか
そのかぶり物が、本当の顔でもおかしくないような
フィット感とリアリティがあった。
〈こいつが犯人なんだ・・・〉
私はほぼ、勝手にこの男が犯人だと決めていた。
ごくん、と生唾を飲む。
男とすれ違う時、私は緊張していた。
そしてその瞬間の出来事だった。

男が私を抱き抱え、ヘッドスライディングするように
細いビルとビルの間にうまく隠れた。
場面が変わっていた。
田舎の細い道から
埃とカビの匂いがする大都会に変わっている。
そのビルとビルの間に、人間が隠れているなんて誰も思わないだろう。
本当に細くて、いつ読んだかわからない雑誌や
小学校で使うような小さな机、ビール瓶、トマトホールが入っていた空き缶
それらの原型がわからなくなるほど、それらはさびついていたり
泥にまみれていたりした。

その男は、こちらを見て
その奇妙なマスクをするりと剥いで見せた。
中から、美しい顔の男が現れた。
その美しさは、自分の存在が恥ずかしくなるほどの
異常なもので、私は自分の耳までもが真っ赤になるのを感じた。

「・・・追われているんですよね?」
「・・・はい・・・」
「・・・良かったら、うちで休んでいきませんか?私の住んでいるマンション、ここなんです・・・」
私はマンションの壁をコツンコツンとこぶしで軽く叩いた。
その隠れた隙間は、私の住んでいる小さなマンションの隙間だった。
男は「・・・助かります」と言って、私と階段を登り始めた。
私はふと、あの「鶏の頭」が気になっていた。
あの頭はどうすれはいいのだろうか。
私の家に隠しておくのは危険だと感じた。
誰かが、今この場面を見ていたとして
「怪しい」と思い警察に通報、そして制服を着て拳銃を持った男達が来たとする。
家の中を捜査されたら・・・。
・・・まずい。私がかくまったことがばれてしまう。
だからといって、その辺に捨てる?
指紋は全部拭いた方が良いのだろうか?
燃やす?・・・どこで?
ゴミに出す?
でも、うまい手を使って処分したとしても
なんだかあのマスクは見つかりそうな気がして不安になっていた。
〈いつも持ち歩けばいいのか・・・それとも・・・〉
どこか違う場所に「証拠」を移動させるにも
この男と外を歩くのは、ちょっと目立ちすぎる。
私はさっき暗闇で見た男の顔を思い出す。
あまりにも美形で、光はなっているような肌の色。
目は切れ長で、なんとなく寂しい印象を与える。
でも、ちょっとこの綺麗さでは人の目を引いてしまう。
人の意識を、この存在に集中させてしまう。
多分、街には警察がうろうろし始めているだろう。
もし、この男が指名手配中だったとしたら、
どんなに記憶をする力が欠如している警察官がいたとしても
この容姿なら、ちょっとやそっとでは脳裏から離れることはない。
後ろからついてくる男の足音だけが耳につく。
コンクリートの階段を3階までいき、一番端の部屋が私の住んでいるところだった。
私は自分の部屋の鍵をがちゃっと開けた。
「ママ、お帰り」
娘達が玄関まで迎えに来てくれた。
中に入ろうとしている私たちの背中側には
広瀬川が見えた。




※これは、今朝見た夢です。
 ちなみにカラーでした。
by kai-takasaki | 2012-01-17 13:52 | 夢を見た